1歳1ヶ月の子どもが、人を噛むので困っています。思い通りにいかず嫌なことがあったときはもちろん、特に何もしていないときでも、ふいに手や足、太ももあたりに噛みついてきます。これが意外としっかり痛いのです。噛まれるたびに「こら」と叱ったり、「お口はダメ」と言って口を軽く叩いたりしているのですが、こういうとき、どんな教え方が正しいのでしょうか。保育園にはまだ通っていませんが、この先お友達を噛んでしまわないか、親戚や友人の子を噛んでしまわないかと不安です。なんとかやめさせたいのですが、どうすればよいでしょうか。
1歳の噛みつきは、性格の問題でも、しつけの失敗でもありません。
この時期にとても多い、発達の途中で必ずと言っていいほど通る行動です。
そして、よその子を噛まないか心配される気持ちもよく分かりますが、そこも含めて手立てはあります。
なぜ噛むのか、どう関わればいいのかを、順に考えていきます。
なぜ、1歳の子は人を噛むの?
1歳1ヶ月というのは、伝えたいことが山ほどあるのに、それを言葉にする手段をまだほとんど持っていない時期です。
「これが嫌」「もっとやりたい」「こっちを見て」頭の中には確かにあるのに、口から出てこない。その行き場のない気持ちが、いちばん手っ取り早い方法である「噛む」に流れ込みます。
噛まれると相手が大きな声を出し、こちらを見て、反応が返ってくる。子どもにとっては、これほど分かりやすく効く手段はありません。悪気があるのではなく、他に使える道具を知らないだけなのです。
そして、嫌なことがないのに突然噛んでくる場面。これも1歳ではよくあることで意味は少し違います。この時期の子は、口でものを確かめる感覚がまだ強く残っていて、興味の対象に口をつけるのは自然な探索行動です。目の前にある腕や太ももが、単純に「確かめたいもの」として映ることがあります。
加えて、歯が生える不快感で歯ぐきがむずむずして噛みたくなる子も多いですし、機嫌よく甘えている流れでガブッといく、いわゆる愛情表現の延長のような噛み方も珍しくありません。
園でも、この年齢のクラスでは噛みつきは日常的に起こります。噛む子が乱暴なのではなく、言葉が出そろうまでの一時期、ほとんどの子が通る道だと考えて大丈夫です。
噛みつきは、言葉が育つにつれて自然に減っていきます。多くの子は2歳前後で言葉が増え始めるとぐっと落ち着き、3歳頃にはほとんど見られなくなります。今やるべきことは、噛む気持ちを封じ込めることではなく、噛む以外の伝え方を渡していくこと。ここが分かれ道になります。
どう関わればいい?
① 「お口を叩く」対応は、いったんやめてみる
今されている対応を責めるわけではありません。痛いのだから反射的に手が出るのは自然なことですし、多くの家庭が一度は通る方法です。ただ、口を叩くやり方は、この年齢では効きにくいばかりか、逆効果になることがあります。
理由は二つあります。
ひとつは、1歳の子にとって「叩かれた」という体験は、噛んだこととは結びつかず、ただ「痛かった」「怖かった」という記憶だけが残ること。「噛む→叩かれる→だからやめよう」と因果でつなぐ力は、まだ育っていません。
もうひとつは、口を叩くことが、子どもにとって強い刺激と注目になってしまう点です。噛むと大人が大きく反応する、その一連が面白い流れとして覚えられてしまうと、かえって回数が増えることがあります。
園でも、対応をわざと静かにすると面白みが減り、噛む回数が減っていく子が多いです。
② 噛まれた瞬間は、短く・低く・淡々と
噛まれたら、まず落ち着いてゆっくり口から体を離します。慌てて引き抜くと歯が擦れて余計に痛いので、下あごを軽く支えて外すイメージです。そして目を見て、低い声で「痛い。噛まないよ」と一言だけ。長い説明はいりません。
この年齢に「どうして噛んだの」「お友達にやったら大変でしょう」と語りかけても、内容は届かず、ただ長く注目が続くだけです。大切なのは、毎回まったく同じ反応を返すこと。日によって笑ってしまったり、日によって強く叱ったりすると、子どもは「今日はどうなるかな」と試すようになります。短く、低く、淡々と。派手に痛がるより、この地味な一貫性のほうがずっと効きます。
園で保育士が噛みつきに対応するときも、驚いて声を上げることはせず、静かに離して短く伝えるという形をとります。
③ 噛む代わりの出口を、必ずセットで渡す
ここがいちばん大事なところです。「ダメ」だけを伝えると、子どもの中には行き場のない気持ちだけが残り、また同じ手段に戻ってしまいます。噛みたくなった気持ちそのものは受け止めて、別の出口を用意してあげてください。
嫌なことがあって噛んだのなら、「嫌だったんだね。嫌なときはこうしよう」と、手をトントンと叩く、大人の手を握る、「イヤ」と声を出す、といった動きを一緒にやってみせます。言葉がまだ出なくても、身振りで気持ちを出す経験を重ねるうちに、噛む以外の回路ができていきます。
歯がむずむずして噛んでいそうなときは、歯がためやおもちゃを渡して「これは噛んでいいよ」と場所を移してあげる。
園でも、噛みつきが出る子には必ず代わりの表現をセットで渡します。禁止だけでは減りにくく、置き換えて初めて減っていきます。
④ 噛まなかった瞬間を見つけて、言葉にする
噛んだときにだけ強く反応していると、子どもにとっては「噛む=大人がこちらを見てくれる」という図式が育ってしまいます。そこで、噛まずに済んだ場面を意識して拾ってあげてください。嫌なことがあったのに噛まなかった、口が近づいたけれど途中で止まった、代わりに手で伝えられた。そういう瞬間に「今、噛まなかったね」「教えてくれてありがとう」と声をかける。子どもは、注目された行動を増やしていきます。これは効果が見えるまで時間がかかりますが、いちばん確実な方法です。
ふいに甘えて噛みにくるタイプの子なら、噛む前のご機嫌な時間に、たっぷり抱きしめて関わっておくのも効きます。求めている接触が先に満たされていれば、噛むという形で確かめる必要が減っていきます。
⑤ よその子への心配は、環境で防げる
お友達や親戚の子を噛まないか、という不安は当然だと思います。ただ、これは性格を直して防ぐものではなく、環境で防ぐものです。
他の子と遊ぶ場面では、まず大人がそばを離れないこと。1歳同士だと、おもちゃの取り合いなど噛みつきが起きやすい場面はだいたい決まっているので、近くにいれば手前で止められます。
噛みつきが出やすい時期は、大人が距離を詰めて見守る。園でも同じで、噛みつきが出る子には保育士がそっと近い位置につき、起きそうな場面の直前に別の遊びへ誘導します。叱って直してから交流させるのではなく、見守りながら経験を積ませるほうが、結果的に早く落ち着いていきます。
それでも起きてしまったときは、相手の親御さんに正直に伝えて謝れば大丈夫です。この年齢の噛みつきは、多くの親が通ってきた道なので思っているよりずっと理解されます。
噛み返して痛みを教えようとするのは、避けたいところです。1歳の子には「噛むのはいけない」ではなく「噛んでいいんだ」というお手本として伝わってしまい、かえって増えることがあります。
また、長く叱り続けるのも逆効果です。この年齢では内容が届かないうえ、注目が長引くことで行動が強まってしまいます。そして、噛まれ続けて痛い、しんどいと感じるのは当たり前のことです。「うちの子だけ乱暴なのでは」と抱え込まなくて大丈夫です。もし言葉の出方や関わり方で気になることが続くようであれば、1歳半健診や自治体の子育て相談で話してみると、それだけでも気持ちが軽くなります。
- 1歳の噛みつきは、言葉が出そろうまでの時期にほとんどの子が通る発達の途中経過
- 嫌なとき以外に噛むのは、口で確かめる探索や、歯のむずむず、甘えの延長のことも多い
- 口を叩く対応は因果が結びつかず、注目が刺激になってかえって増えることがある
- 噛まれたら短く低く淡々と。長い説教より、毎回同じ反応という一貫性が効く
- 「ダメ」だけでなく代わりの出口を渡し、噛まなかった瞬間を拾って言葉にする
※本記事は一般的な子育て情報であり、専門的な相談に代わるものではありません。ご心配が続く場合は、自治体の子育て相談窓口にご相談ください。

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